教育プログラムをキット化して活用!
教育普及に知恵の共有、一石○鳥のキットづくり
キット化するって、どういうこと?
さまざまな機会でつくってきた教育プログラム。自館以外でも有効に活用しているだろうか? 館外で使われていないだけでなく、その企画展やイベントなどが終わった後は、ほとんど活用されていないというところも多いのかもしれない。
自館の知恵がつまった教育プログラムは、ミュージアムにとって重要なソフト。つくった人以外は内容がよくわからなかったり、実施できなかったりするのでは、とても残念。そのプログラムをつくった人だけでなく、他のスタッフや、学校の先生や、地域の人たちも活用できるようにするために再構成していくのが「キット化」だと私たちは捉えている。
プログラムの目的、対象、流れ、必要なツール類、バックデータ、参考資料などを、活用する側の視点にたって整理し直し、使いやすいカタチに一揃いにまとめることで、さまざまな利点が生まれてくる。たとえば、プログラムをつくった人だけでなく、活用する人たちと一緒にキット化していくと、ミュージアム以外の場でどのように教育普及していったらいいのかについて、その現場の人たち(学校や地域の人たちなど)と一緒に知恵を出し合ったり、現場の状況を知ったり、自館が伝えたいことを理解してもらったりする機会にもなるのである。
具体的なモノがあると可能になること
博学連携とよく言われているが、地域や学校の人たちと「連携していきたいですね」と話すだけではなかなか実際の動きにはつながっていかない。しかし、貸し出しキットという具体的なモノがあれば、それをどうやって使っていこうか、そのために必要なことや仕組みはなんだろうかと、実施への道筋をつくっていくことも可能になるだろう。
たとえば、香川県環境学習プログラム集をつくったときは、教育委員会や地域の先生たちと一緒に意見交換をしながらキット化を進めていったことで、授業で活用しやすいように学習指導要領との関連をマニュアルの最初に明記したり、授業で必要な資料はPDFデータで提供できるようにしたり、グループ学習のためのツールは地域の学校の規模に合わせて必要な数をつくったりした。
また、先生方対象の夏休みの研修に、貸し出しキットの使い方講座を入れてもらったり、一緒につくった先生が実際に授業をおこなってその結果を発表してくれたりしたことで、先生方のネットワークにも貸し出しキットの存在を知ってもらうことができ、活用が徐々に広がっていったと思う。
いくつかの施設や自治体で上記のような取り組みをおこなって感じたのは、「あるべき論」だけで終わってしまいがちな博学連携を実体化するには、できるだけ一緒に取り組めるモノを介在させ、それを活用していく仕組みを具体的につくっていくのがいいだろうということである。
スタッフの育成や知恵の共有
教育プログラムのキット化は、館外との連携のツールとしてだけでなく、館のスタッフ同士の知恵の共有や、若手スタッフの育成の機会としても有効である。
たとえば、自分が担当した企画展やワークショップなどで活用した教育プログラムのことはよくわかるけれど、担当でなかったものについてはよくわからなかったり、活用できなかったりすることは、多いのではないだろうか。だからといって、担当外の教育プログラムの内容や活用方法などを学びあったり、見直しをしたりする機会は、必要に迫られない限りほとんどないと思われる。
企画展やワークショップなどで、自館の知恵がつまった教育プログラムをつくったのであれば、その知恵をスタッフ間で共有しなければもったいないし、若手スタッフが教育プログラムをつくっていくときの知恵の伝達にもなるだろう。
私たちが関わった館では、キット化するときには、「教育プログラムの貸し出し」という新たな事業を展開していくためのプロセスに位置づけて、スタッフやボランティア研修も兼ねたワークショップ形式でおこなっていくことが多かった。新たな事業にすることで、新たな予算をつけることが可能になったり、関われるスタッフが広がったり、館外との連携もつくりやすくなったと思う。
キット化するときに気をつけること
自館の教育プログラムを貸し出すためにキット化するときに気をつけなければいけないことがいくつかある。その1つが、使う側の視点で再構成すること。
キット化した教育プログラムを使うのは、館のスタッフではなく、学校の先生や地域の人たち。その人たちの現場に合わせて活用できるように、プログラムの目的と骨子、そして学んでいくプロセス(流れ)を明確にしたら、あとはそれぞれの現場でアレンジしたり、他のプログラムと組み合わせたりしやすいように、内容を整理し、使い方マニュアルなどをつくっていく。
使う側の人たち(学校の先生や地域の人たち)とチームを組んでキット化を進めていくのが一番望ましいが、それが難しい場合でも、それらの人たちに意見を聞きにいったり、現場の様子を見に行ったりするなど、使う側の現状やニーズについての情報収集はしっかりとしてほしい。
また、貸し出しキットに入れるツール類(パネル、フリップ、小道具など)も、対象となる人数やおこなう場所によって、適切な大きさや形状が違ってくるし、グループワーク用のツールやワークシートなども必要な数が違ってくる。学校の教室でおこなうならば、パネル類は黒板に貼れるようにした方がいいし、野外でプログラムをおこなうのであれば、あまり大きすぎず、多少の水濡れなどにも対応できるように加工する必要がある。
たとえばストップおんだん館でつくった貸し出しキットは、学校やイベントなどでの活用が多かったので、黒板や教室の大きさを想定したパネルの大きさと形状にし、昨年度鹿児島でつくった森のようちえん用の貸し出しキットは、野外で幼いこどもたちを対象に実施しやすいように、ツールだけでなく、キットを入れるケースも持ち運びしやすい大きさと形状にした。
貸し出しキットを使うことで、使う人も学んでいけるようにする
使う側の人たちの視点で再構成するときにもう1つ気をつけてほしいのは、彼らはそのプログラムが伝えようとしていることの専門家ではないということ。専門用語を使わないという配慮はもちろんのこと、そのプログラムをおこなうことで、使う側(先生たちなど)もその内容について学んでいけるような仕組みにすることが大切である。
たとえば、森のようちえんで使ってもらうためにつくった貸し出しキットの中の1つに、フィールドの生きものたちの生活を知る、という内容のものがあった。このキットを借りて使う保育者たちは、森のようちえん活動をしているが、森の生きものに詳しい人たちばかりではない。そのため、こどもたちにプログラムをおこなう前に、下調べとして保育者が自分たちのフィールドにどのような生きものがいて、どのように生活しているのかを調べて、プログラムに使うカードをつくっていくというプロセスにした。
プログラムで使うカード(ツール)を自分たちでつくるプロセスがあることで、フィールドの生きものたちについて調べたり(キットの中に参考図書を入れてある)、どのような生きものがいたかを記録したりするので(記録シートも入れてある)、少しずつ保育者も自分たちのフィールドの生きものの生活の様子について知っていくことができる。つまり、貸し出しキットは、プログラムを実施する人たちへの教育普及のツールでもあるのだ。
このように、博学連携、館内での知恵の共有と伝達、実施者をも含めた教育普及など、一石二鳥どころではなく、三鳥にも四鳥にもなっていくのが、教育プログラムをキット化して貸し出していくためのプロセスと仕組みなので、ぜひ有効に活用してほしい。
*ストップおんだん館:スキルアップ研修(2004〜2009年度)
*香川県環境学習プログラム集:企画デザイン製作(2005年度)
*幼児童向け感性を育む環境教育プログラム:プログラム研修(2014年度)
*沖縄県環境教育プログラム:キット製作(2020年度)
*掲載誌:博物館専門誌ミュゼ 112号、
教育新聞 2006年7月3日、
食農教育 2008年7月号