暮らしに根ざしたプログラム

暮らしに根ざしたプログラム

こどもたちを対象に

このところ、ミュージアムや社会教育活動に携わっている友人知人たちの活動を見ていると、こどもたち、それも幼児や児童など比較的低年齢のこどもたちを対象にした活動が増えているような気がする。かくゆう私たちも、沖縄県内のこども園での活動に関わったり、村内のNPOと一緒に夏休みのサマースクールをしたり、森のようちえんなどのこどもたちを対象にしたプログラムキットづくり研修の講師をしたりしている。

もちろん以前からこどもを対象とした活動は多くあるけれど、身近でそういった活動に関わる人たちが増えているのは、社会状況の変化や未来への不安、少子化など、このままでは社会としてマズイのではないだろうか、少しでも未来をよくしていくには、こどもたちやこどもをとりまく環境に対してなんらかのアプローチをしていかなくては、と感じる人たちが増えているためだろうか。

今回は、こどもたちを対象にしたプログラムづくりで私たちが大事にしていることを軸にしながら、暮らしに根ざしたプログラムについて書いていこうと思う。

実生活や経験から生まれる

数年前に鹿児島でおこなった、森のようちえんなどのこどもたちを対象としたプログラムキットづくりの研修。各地から研修員の方々に来ていただいたのだが、この研修で特徴的なのは、それぞれのプログラムが各研修員の実生活や経験に根ざした内容になっていること。つまり、タネ採りをしながら自然農をしている人がタネをテーマにしたプログラムをつくり、地元の年配の方々から昔ながらの知恵やスキルをこどもたちや若い世代に伝える活動を長年続けている人が、地域の知恵の伝承をテーマにしたプログラムをつくった。

自分たちの経験や暮らしを元にプログラムをつくっていくと、頭だけで考えたものとは違って、そのテーマが抱える矛盾やジレンマにも向き合った内容や学びのプロセスになっていく。私たちが日常生活の中で学んでいくさまざまな事柄の多くは、こうしたい&こうしたらいいということと、それにまつわる矛盾やジレンマといかに折り合いをつけてやっていくかの知恵やスキルではないだろうか。それゆえ単に、「こうしたらいい」ということだけでつくられたプログラムは、机上の空論というか、実生活の中で活用したり、実現することが難しかったり、実生活につながっていきにくい気がしている。

これはいわゆる環境や自然系のプログラムなどに限らず、どの分野のプログラムでも同様で、特定の場所(たとえばミュージアムの中)で1回もしくは数回プログラムをおこなうことで目的が達成されたように感じたり、そのプログラムで気づいたことや学んだことを実生活で活かしていきたいと思ってもいろいろな条件が揃わなくてできなかったり、そもそも実生活とどうつながっているかがよくわからなかったりというようなことが、ままあるのではないだろうか。

大事にしている3つのこと

私たちがこのように感じているのは、人々が生きていくときの知恵だったり、経験だったり、楽しみの手がかりになるようなプログラムをつくりたいと思っているから。それを実現するため、プログラムをつくるときには、次の3つのことを大事にしている。

1) 実感や経験や暮らしから生まれること
2) 自分が必要だと感じていることをカタチにすること
3) 実生活で活かしていけるものにすること

このように考えながらプログラムをつくっている人がどれだけいるのかわからないけれど、これまで社会教育施設の展示プログラムや教材づくり、地域づくりのワークショップなどをしてきた中で実感しているのは、人々の暮らしや人生に活かされないものでは意味がない、その場限りで終わってしまうものはつくりたくない、ということ。

そのようなプログラムをつくるために私たちが気をつけているのは、結構シンプルなこと。そのいくつかを参考までに。

気をつけていること

1)頭だけで考えたものにしないこと。自分の暮らしや人生で必要だと感じられないものはつくらないこと。

2)暮らしをふりかえってみて、その中で感じたことや考えたこと、必要だと思ったことを手がかりにしながらつくっていくこと。

3)そのプログラムをおこなうことで、どうなってほしいのか、どんな未来をつくりたいのかを具体的に想像しながらつくること。

4)なにかに違和感を感じたり、なにかがとても楽しかったり、こういうものやことが必要だと感じたら、そこがプログラムづくりの入口。

5)そして、感じたことや考えたことをどうやってカタチにしていくのかというと、こんなプログラムがあったらいいな、必要だなと思ったら、まずは自分でやってみること。暮らしの中で繰り返しやってみる。そして、自分が感じたことを手がかりにしながら、内容やプロセスを練っていく。

6)ある程度カタチになったら、自分以外の対象になっている人たちにやってみて、反応を見ながら手直しをしていく。多くの場合、よりシンプルなカタチになっていくと思う。

他にもいろいろあるけど、長くなるので、まあこのくらいに。

大人にもこどもにも

そしてつい見すごしてしまうけれど、そのプログラムをおこなう側の学びや経験が深まっていくものがいいなと思っている。つまり、いつおこなっても同じ答えや結果にしかならないようなものではなくて、おこなうたびに新しい発見があったり、気づきがあったり、別の発見につながっていくようなもの。

たとえば、森のようちえんなどを対象にしたプログラムづくりの場合、こどもたちと一緒に森の生きものたちのフィールドサインを見つけるプログラムをおこなうことで、生きものや生態系の専門家ではない大人(保育者)たちも、少しずつそのフィールドに棲んでいる生きものの暮らしの様子に気づくようになり、発見したものやことを地図などで共有したり蓄積していくことで、森や身近なフィールドへの理解につながっていくようにしている。

また、地域の知恵の伝承をテーマにしたプログラムでは、そのプログラムをおこなうための準備のプロセスがそのまま保育者や親たちが地域とつながっていくプロセスになるようにしている(地元の年配者など、地域の知恵のある人たちを探して、コンタクトをとり、こどもたちと一緒に体験するための準備をしていく過程など)。

ここでは私たちが大事にしているプログラムの考え方やつくり方などを紹介したが、本記事をお読みのみなさんも、それぞれが大事にしているプログラムの考え方やつくり方などがあるだろう。そのような知恵を共有したり、意見交換したり、蓄積していくことで、私たちが目指している、こどもと大人の暮らしに根ざしたプログラムもより深まっていくだろうし、みなさんが実践されているプログラムも深まっていくのではないかと感じている。