見つけた!ミュージアム

見つけた!ミュージアム
兵庫県立一庫公園ネイチャーセンター

見つけた!が出会う場所

展示台の上に並べられた色とりどりの葉っぱや木の実。春には新芽が、夏には大きく育った葉っぱが並び、秋になると落ち葉で緑から赤までのグラデーションがつくられたりする。

そして、壁面の9分割パネルには少しずつ形の違うドングリが1列に並び、コルクボードにはさまざまなキノコがとめられている。そう、これらを展示したのはこの公園に遊びに来た人たちであり、ここは彼らの「見つけた!」がそのまま展示になっていくミュージアムなのだ。

兵庫県立一庫公園は、兵庫県と大阪府の県境、川西市にある都市型公園である。大阪市内から車で1時間程というアクセスの良さゆえ、宅地開発も進み、公園近隣にはいくつもの新興住宅地があり、ここで暮らす若い家族が、この公園の利用者の大半を占めている。知明湖畔から標高349mの知明山までが県立一庫公園として整備され、2002年の4月に公園の核施設として、一庫の自然と暮らしをテーマにしたネイチャーセンターがオープンした。

市民のためのミュージアム

ネイチャーセンターは、その地域の植物や動物や生態系についての知識を市民に伝える場所として機能することが多いが、ここ一庫公園では、あえて専門的な知識を一方的に伝えることはせずに、公園を訪れた人たちが見つけたものを、見つけた人自身が展示し、データベースに蓄積し、編集していくアップデイト型のシステムをつくった。このようなシステムにした一番の理由は、ここを未来を築いていく市民を育む教育施設だと考えているからである。

私たちを取りまく自然環境や社会状況は刻々と変化している。自然や社会の変化は私たちの暮らしに影響を与え、私たちの暮らしもまた自然や社会に影響を与えている。このような変化の中で生きている私たちにとって必要なのは、自分自身で変化を知り、的確に判断して行動するチカラである。

情報をただ受け取るだけでは、新たなものを生み出していくチカラを身につけていくことは難しい。しかし自分自身で未知のものを発見し、主体的に関わりながら理解を深めていくことで、自分なりの価値観が生まれ、暮らしや行動へとつなげていくことができるのである。その第一歩として「見つけた!」という体験が重要だと考えている。

ワークショップで企画するミュージアム

プロジェクトは、地域住民と接することから始めた。会議や懇談会という形式ではなく、季節ごとに一庫公園で開催するワークショップという場でおこなうことにした。

兵庫県「一庫公園」ワークショップを通して、市民が自然のどんなところに興味があるのかを探り出す

なぜなら会議や懇談会では、実際に公園を訪れる人たちがそこでどのような行動をし、何をしたいと考えているのかが生の声として知ることができにくいこと、そして何より会議ではこどもたちの生の姿や声が聞けなくなるからだ。

ワークショップは、私たちがこれから一庫公園でやろうとしていることを体験を通して地域住民に伝え、それに対する反応や意見を受け取る場とした。よって今回のプロジェクトのクリエイティブスタッフは、なんらかの形で必ずワークショップのインタープリターとして地域住民の前に立つことにした。それは、地域の人たちの生の声が聞けるワークショップこそが、私たちにとっての企画会議であり、そこでの反応や意見を企画やデザインに反映させていくためである。

ワークショップで運営するミュージアム

ワークショップは、ネイチャーセンターをつくっていくときの企画会議の場としてだけでなく、オープン後もアップデイト型ミュージアムのエンジンとして機能している。ワークショップでは、参加者が主体的に興味を発見すること、見つけたことを他の人にもわかるように表現したり、展示したり、蓄積していくことに重点を置いてプログラムを組んでいる。

兵庫県「一庫公園」ワークボックスは自然と関わるきっかけとして機能する

ワークショップだけではない。ネイチャーセンターにはみんなの「見つけた!」をサポートするシステムがいくつもある。たとえばワークボックスがそうである。展示室に並んだワークボックスは、自分自身の興味を出発点として未知を発見するための道具箱である。

自分の中の発見する心を育てるには、まずは興味の芽を見つけることが大切である。しかし、自分自身で興味の芽を見つけることは意外に難しい。そのため、興味の芽を刺激するワークボックスを活用したセルフワークショップという出発点をつくった。ワークボックスを活用したセルフワークショップは、いつでも一人でおこなえるので、多人数でおこなうワークショップよりも時間や場所の自由度が高い。しかし一人でおこなうため、自発性や想像力を多分に必要とされるので、ワークボックスには、五感を刺激したり好奇心をくすぐるなどの工夫がなされている。

そして、ワークショップやワークボックスでの「見つけた!」を他の人に伝えるためのシステムとして、ユニット形式のアップデイト展示システムがある。アップデイト展示システムは、自分が発見したものを、大人でもこどもでも自分自身の手で展示できる構造になっている。

展示ケースやパネルなどすべてがユニット形式でつくられ、什器・展示台・壁面に自由に取りつけることができる。この展示ユニットを活用することで、自分が発見した情報と他の人々からの情報を組み合わせることが可能となり、それによって情報の編集を自由におこなうことができるようになる。展示の中で情報の編集をおこなうことで、情報は整理され、新たな関係性が生まれ、より深い理解へと至るプロセスがつくられるのだ。

人と人をつなげる「ひとくら図鑑」

「見つけた!」は公園内だけでは完結しない。一庫公園には、市民が情報をやりとりすることによってつくられる一庫の自然情報データベース「ひとくら図鑑」もある。

兵庫県「一庫公園」今でこそ一般的になったSNS的機能が人と自然を結びつける

「ひとくら図鑑」はインターネット上にあり、ネイチャーセンターでも自宅からでも情報を入力することができる。市民がそれぞれ興味を持ったテーマに対して情報を書き込んでいくことで、それらの情報に触発され、新たな興味が生まれたり、同じテーマに興味を持っている人同士が出会い、「ひとくら図鑑」で情報を交換し合うことで、新たなネットワークが生まれていくのだ。

アップデイト型ミュージアムの構造

アップデイト型ミュージアムは、3つの柱がトータルにリンクする構造になっている。

1)興味の芽を刺激するワークボックスとワークショップ
2)情報の編集が自由におこなえるアップデイト展示システム
3)情報のやりとりによってつくられる自然情報データベース

ワークボックスやワークショップをきっかけにして見つけたことを、見つけた人自身がユニット形式の展示システムや自然情報データベースに展示し蓄積していくによって、市民が主体的に関わる動機が生まれる。

そしてその人の発見が次の発見を生み、まだ別の人の発見へとつながっていくことで、情報をやりとりするプロセスが始まり、より深い理解へと至るのである。つまりこの3つの柱をトータルにリンクさせる構造こそが、アップデイト型ミュージアムの根幹であり、このシステムによって「自分自身の興味を見つけ、考えていくチカラを育む」施設づくりが可能となるのである。

*兵庫県立一庫公園ネイチャーセンター:情報計画・ワークショップ企画実施・展示企画製作・アップデイト展示システム導入(1999〜2002年度)

*掲載誌:博物館専門誌ミュゼ 55号、77号、

    博物館専門誌DOME 67号、
    mom 2002年11月号、
    翼の王国 2004年12月号