日常の中に学びの場を

日常の中に学びの場を
ちいさな学びの場の広がり

自分たちで場をつくりたい

自分で場をつくりたいと訪ねてきてくれる人たちは、20代後半から40代が多い。私たちが独立したのも20代後半だったから、新たな場をつくるのに適した年代なのかもしれない。

彼らに「これまでの仕事で培ってきた伝えたいこと、実現したいことを、自分自身でカタチにしていきたいけれど、どのように場をつくることができるのか、どんな場をつくっているのかを知りたい」と問われることが多いので、まずはつくらしを見てもらいながら話をする。

国や行政がつくる施設でも、個人がつくるちいさな場でも

つくらしは、ちいさな展示室もワークショップスペースもライブラリーも工房もあって、私たちの居住空間もある、ちいさな一軒家である。

「つくらし」のワークショップスペース。学習院大学のゼミとの共同ワークショップの様子

1階に工房兼展示室兼ワークショップスペースとバックヤードがあって、2階がライブラリーとプライベートスペース。ここでものづくりもワークショップも研修もライブも講演会もするし(定員20名程だけど)、視察もくる。

那覇市立「壺屋焼物博物館」と合同でおこなう大学生対象の学芸員研修の様子

広さはとても限られているけれど、場の機能やつくりかたの基本は、私たちがこれまで国や行政の社会教育施設をつくっていたときと変わらない。もちろんその場に合わせて、アレンジや工夫などをしているが、学びの場として必要な機能は削らず、限られた広さと予算の中で使いやすく応用しやすいハードとソフトにするというのは、私たちの考えの大きな柱の1つである。

たとえば、国がつくる施設の場合

一例として、以前私たちが立ち上げと運営に関わった、環境省の施設「ストップおんだん館」(2010年に閉館)の平面図を見てほしい。

国の施設とはいっても、限られた予算と広さの中で運営していかなければならない。そのため、館のスタッフだけで展示プログラムづくりや展示替えができ、時期やイベントなどに合わせて空間の機能やレイアウトを変えることができるハードとソフトを開発して運営していた。

たとえば壁面には、展示替えがしやすいアップデイト展示システムを組み込み、ワークショップコーナーと展示コーナーは仕切りも含めて可動式にして、夏休み期間やイベントなど、時期や内容に合わせて広さやレイアウトなどを変え、開発した展示プログラムはキット化して全国に貸し出していた。

そして、つくらしの場合

つくらしもこれと同様の考え方でつくっていて、壁面にはちいさな学びの場用に松原が新たに開発したアップデイト展示システムを組み込み、什器をすべて可動式にすることで、ワークショップと展示、そしてイベント(講演会やライブなど)を同じ空間で(同時にではなく、多様に)おこなえるようにした。

そして、大型のプリンターをバックヤードにおいて、展示パネル等を内部でつくれるようにし、必要に合わせて展示替えをして、開発した展示プログラムは、つくらしだけでなく、地元のNPOと一緒におこなっているサマースクールなどでも活用できるようにキット化しているのも、ストップおんだん館と同様である。

くらしは学びの宝庫

「学び」というと、学校や教科書などから得るものと思いがちだが、実はくらしの中にこそ、多くの学びがあると感じている。

「学ぶ」のはそもそも、生きていくために必要なことを身につけるためで、教科書に書かれていることを覚えるためではない。生きていくために必要なことはどこで得られるかといえば、それはやはり自分が生きていく現場で、くらしや地域など日常生活の中に多くの学びがあるのは当然のことだ。もちろんそこには、天文、生物、芸術、哲学、文学、歴史、語学、経済等々、書き出すとキリがないが、さまざまなことが含まれている。

それらを教科という分野にわけて、ある程度の概要を教科書に載せて、それを使って教えているのが学校なのだが、いつの間にか「学び」はくらしの現場から消え、学校で教えてもらうものになってしまったような気がする。もちろん学校で学ぶことを否定するつもりはないが、くらしと学びが切り離されてしまっている状況を変えていきたい。そのためのしくみの1つとして、日常の中にちいさな学びの場をつくるという方法がある、と私たちは考えている。

ちいさなネイチャーセンター

たとえば、沖縄のやんばるには、そこで生まれ育った若者が自分でつくって運営している「ちいさなネイチャーセンター」がある。

やんばるにある「ちいさなネイチャーセンター」。地域のこどもたちが立ち寄る

行政のネイチャーセンターでスタッフやツアーなどをしていた若者が、伝えたいこと、実現したいことを、より納得できるカタチでおこなっていきたいと考え、つくらしに相談に来た。「昔、おばあちゃんがお店をしていたところをいまは使っていないので、そこに地元のこどもたちや大人が気軽に立ち寄って学んでいけるちいさなネイチャーセンターをつくりたいと思っている」ということで、つくらしのミュゼラボで一緒にハードやソフトについて考えながら、彼ら自身でつくっていった。

ネイチャーセンターの展示を見て、プログラムを体験して、興味を持ったら、森の中や身近なふしぎを見つけに行ったり、調べたりという学びのプロセスにしているので、時期に合わせて展示を変えたり、日の出や潮の満ち引き、森の様子などを日々伝えていく。そのため壁面は、マグネット仕様の黒板塗装にし、色は団体名「Yambaru Green」にちなんで、きれいな緑色!

自分たちで展示プログラムをつくって、季節に合わせて展示を変え、プログラムもキット化し、日常的に環境調査をおこない、ワークショップやツアーなどもしている(現在はコロナ禍で閉館中)。また、あまり自然に興味がない人たちにも立ち寄ってもらえるように、やんばるの生きものや自然をテーマにしたグッズをつくったり、LINEのスタンプをつくるなど、若者ならではの感性で活動を広げている。

農家の納屋を学びの場に

数年前に鹿児島県の垂水で自然農をしている「かえるすたいる Yamada野菜」の若い夫婦と一緒につくったちいさな学びの場も、彼らの暮らしの中でうまく活用されているようだ(現在は、水害等のため移転)。

納屋を改造した「かえるすたいる Yamada野菜」の展示&ワークショップスペース。企画展の様子

社会教育施設のスタッフを経て、自然農をはじめた彼らは、農業や食を通じて、いのちや自然の大切さを伝えていきたいと考え、そのためのワークショップやイベント、食品加工などを、納屋を改造してつくったちいさな学びの場でおこなっている(写真は、オープニングのときにおこなった「フィッシュ京子ちゃん展」の様子。フィッシュ京子ちゃん展は、つくらしでも開催した)。

最近は雑誌に連載を持ったり、TEDでプレゼンをしたり、もちろん日々の農作業もあって、大忙しの彼らだが、タネをテーマにした環境教育プログラムをつくってキット化したり、森のようちえん活動をするなど、彼らなりの場づくりをしている。

食堂の屋根裏にも

食堂の屋根裏に、地元の若い人たちが気軽に集えるような場をつくったり(写真は屋根裏のオープニングでおこなった展覧会の様子)、ここで紹介した以外にもいくつか学びの場は生まれてきていて、これからつくろうとしている人たちも何組かつくらしに通ってきたりしている。

屋根裏は広く、展示会やワークショップ、イベントなどの開催を予定している

国や行政などの社会教育施設が担う役割も大きいが、自分なりの学びの場をつくりたいと思ったら、個人やちいさな団体でつくって運営していくというのもありだろう。一人ひとりのチカラというのは、思っていた以上に大きい、というのは、このごろ特に感じていることである。

ただ、つくらしをつくりながら気づいたのは、全部を自分たちだけでやらなくてもいいということ。どちらかというと、まわりの人たちに助けてもらったり、知恵を出し合ったりしながらつくっていったほうが、人々とのつながりが大きく強くなっていくような気がしている。

食堂の屋根裏を改装した鹿児島県伊佐の「さつまや食堂」の場合、食堂を切り盛りしながらの作業なので、なかなか場づくりの時間がとれない。そこで、地元の仲間たちが助っ人としてチカラを発揮した。最初に、どのような場にしていきたいかを私たちと相談しながら詰めていき、屋根裏の改装に必要な道具や作業方法、展覧会をやるにあたっての段取りや内容を確認し、それを元に地元の仲間と協力しながらつくりあげていったのだ。

仲間と一緒につくるメリットは、協力してくれた人たちがその場に愛着を感じること。私たちも地域づくりの一環で場づくりをするときは、あえて地域の人たちと一緒につくっていったりする。伊佐も屋根裏ギャラリーにまず訪れたのは、一緒につくった仲間たちだった。また、ワークショップを地元のNPOが主催をするなど、つくる過程の中で個人から地域へと無理なくつながっていったと思う。

人々のくらしに近いところにちいさな学びの場がつくられていくことで、地域や人々のありかたも少しずつ変わっていくのではないだろうか。

*つくらし@沖縄:設立運営(2012年〜)
*ちいさなネイチャーセンター:ミュゼラボ(2014年)
*かえるすたいる:コンサルティング・展示設営(2013年)
*さつまや食堂:コンサルティング・展示設営(2013年)

*掲載誌:博物館専門誌ミュゼ 104号、105号、111号