新たな学びを生み出すシステム

新たな学びを生み出すシステム
環境省「ストップおんだん館」

開館してからが本当の始まり

2004年に開館した(2010年に閉館)ストップおんだん館は、地球温暖化を防止する活動を各地で普及していく全国地球温暖化防止活動推進センターの拠点として環境省が設置した施設である。

環境省「ストップおんだん館」でアップデイト展示システムを活用した展示

当初は、従来型の展示施設として企画されていたようだが、地球温暖化防止活動を推進している人たちを支援するミッションと噛み合わず、計画は難航していた。そんなときに私たちが提案する展示システムに興味を持った関係者から連絡をいただいた。

環境問題には1つの決まった答えがあるわけではない。しかも状況は刻々と変化し、情報は更新され、市民の意識も変わっていく。従来のような固定化された展示形式では限界があるのだ。

私たちのアップデイト展示システムは、展示とプログラムを組み合わせて学んでいく形式で、情報を更新しやすく、展示替えもしやすいシステムになっている。オープニングの展示プログラムづくりからスタッフを巻き込み、開館後もスキルアップ研修をおこなって新たな展示プログラムをスタッフが開発できるよう育て、開発した展示プログラムはキット化して各地に貸し出す仕組みをつくる、という提案をしたことでプロジェクトは一気に動きはじめた。

展示プログラムの開発基地

単なる知識になりがちな地球温暖化(気候変動)を、自分事として捉えて行動へとつなげていけるようにするために、人々のくらしや興味に近いさまざまな切り口をテーマにした企画展を年に5回おこなうことにした。

環境省「ストップおんだん館」での展示。地球温暖化という自分ごとになりにくいテーマを家庭の食卓から考えていくプログラム

企画展では、テーマに関連する展示プログラムを8〜10種類組み合わせて展示を構成し、展示替えごとに新たな展示プログラムを少なくとも1種類は開発し、来館者の反応を見ながらブラッシュアップして貸出物をつくり、全国へ提供していく。つまりここは、展示施設というより、展示プログラムの開発基地なのである。

変えると、増える

年に5回の展示替えをおこなうのはなかなか大変だが、新たな展示プログラムをコンスタントに開発していくのには適したやり方である。なぜなら、いつまでにつくりあげなくてはならないという期日が明確なので、開発の滞りがないのだ。

環境省「ストップおんだん館」展示替えによってまったく違う空間が構成される

また、来るたびに新しい展示になっているとリピーターは増え、来館者数もそれに伴って増えていく。館の広さが限られているのであまり多くの人数は受け入れられないが、通常、開館から2年で減少していくといわれている来館者数も、毎年増加傾向にあった。

展示替えの作業も、展示内容に合わせてレイアウトが自由に変更できるので、新たに開発した展示プログラムをメインに据えながら、これまでの展示プログラムを組み合わせて構成していくことで、実はあまり時間と手間をかけずに全体の印象を変えられる。開館当初は私たちが主導で展示替えをおこなっていたが、じきに展示プログラムの企画や制作、展示レイアウトや作業もすべてスタッフが主となっておこなえるようになった。

アップデイト展示システムを活用した展示替えの様子
貸しやすくて借りやすいカタチ

開館からの5年で館が開発した貸出物は65種類あり、ニーズに合わせて複数セット用意している。主な貸出先は学校、行政、市民団体、社会教育施設などである。

ストップおんだん館のバックヤード。展示ユニットがすぐに入れ替えできるように効率よくレイアウトされている

貸し出しをする場合に重要なのは、貸し出しやすい、また借りやすいシステムをつくること。そこでこの館では、保管しやすく送料もあまりかからないように、展示物は基本的に立体物や造形物は使わず、規格化した平面の組み合わせでつくっている。これらの展示物にワークシートやインタープリテーションに必要な小道具、フリップ、マニュアルとバックデータを丈夫で軽い貸出ボックスに入れ、館内やバックヤードに保管し、そのまま宅急便で各地に貸し出せるようにしている。

貸出物のニーズはとても高く、予約はいつもいっぱい。3人いるアルバイトも貸出作業(受付、貸出物の点検&補修、発送など)で毎日大忙しだった。2004年7月の開館から2007年度までに1350団体に貸し出し、貸出先での波及効果(貸出物を活用した学習会やイベントへの参加者数)も74万人以上に及んでおり、展示プログラムを貸し出すという手法は効果的だといえるのではないだろうか。また、社会教育施設などで継続的に展示プログラムを使いたいという場合には、データ提供もおこなっていて、これまでに107団体に提供して、各地で活用されている。

展示プログラムの効果

では、展示プログラムを通した学びの効果はどうだろうか。数値化するのは非常に難しいが、2007年度に神奈川大学がおこなった調査結果がある(「地球温暖化に係る政策支援と普及啓発のための気候変動シナリオに関する総合的研究」より)。

展示プログラムに沿って自分の考えを展示に反映させていくことで学びが広がる

30〜40代の既婚女性120名を対象にストップおんだん館の展示プログラムをおこない、意識と行動の変化を調べたものである(事前・直後・1ヶ月後にアンケート)。その結果、直後のアンケートでは90%以上の人が「今後、温暖化対策への取り組みを更におこないたい」と答え、1ヶ月後のアンケートでも70%以上の人が「温暖化防止のために実際に行動を始めて続けている」と回答している。この調査だけですべてを語ることはできないが、ここで開発した展示プログラムの効果を測る1つの目安になるのではないだろうか。

*環境省ストップおんだん館:基本計画・展示企画製作・アップデイト展示システム導入・スキルアップ研修等(2004〜2009年度)

*掲載誌:ミュゼ70号、78号、79号、87号、88号、90号、

    朝日新聞2004年11月1日夕刊、
    グローバルネット167号「話題と人」