つくるプロセスが一番学べる

つくるプロセスが一番学べる
スタッフが育ち、施設も育つ

キーワードは一石二鳥

私たちがおこなっているスタッフ育成のキーワードは「一石二鳥」である

「かごしま環境未来館」でのスタッフの育成と地域の小学校の先生を対象としたプログラムの発表会

どういうことかというと、スタッフが育っていくプロセスと、施設が育っていくプロセスを重ね合わせるのである。つまり一つのことをすることで、二つの(実際にはそれ以上の)成果が生まれてくるようにするのである。では、どんな二鳥が生まれてくるのか見ていこう。

展示プログラムが増えていく

昨今の国や地方自治体の緊縮財政の影響などで、定期的に大きな展示替えをおこなえるほどの運営費を捻出できている施設は少ないのではないだろうか。

豊田市環境学習施設「エコット」でのボランティア対象のプログラム開発研修

たぶん多くの施設は開館当初の展示が何年も変わることなく、イベントなどで目先を変えながら、来館者のリピートや増加を目指していると思われる。しかしイベントや展示室の一角での企画展では、リピートする動機を生み出すほどの変化をアピールすることは難しい。

私たちのスタッフ育成は展示プログラムづくりと共におこなうので、スタッフが育っていくと自ずと展示プログラムも増えていく。しかも展示ブログラムは、名称が示す通り展示物と教育プログラムが一体化したものなので、新しくできた展示プログラムを使って企画展をコンスタントにおこなっていくことができる。

また展示プログラムは貸出物としてキット化するので、収納しやすく、新たにつくられた展示プログラムと組み合わせることで、別の企画展でも活用することができ、活用の場に合わせたアレンジもしやすくなっている。つまり、スタッフが育つと展示プログラムが増えていくので、学びのソフトが充実し、それらを活用して企画展をおこなうことで、来館者のリピートや増加を促す変化を生み出すことができるのである。

学校や地域との連携を促す貸出物

スタッフと共につくった展示ブログラムは、施設の中で活用されるだけではない。

環境省「ストップおんだん館」の貸出キット

すでに多くの施設でおこなっていることだと思うが、地域連携や館学連携など、積極的に地域や学校と連携していくことが、これからの社会教育施設の役割の一つである。

展示プログラムをキット化した貸出物は、施設が開発した学習プログラムを、学校の先生が授業で使ったり、地域のNPOが出張授業をしたり、地域のイベントで活用しやすいようにしたもので、私たちがスタッフの育成に関わった施設では活発に活用していて、たとえばかごしま環境未来館では、8つの貸出物が生まれた。 

貸出物は展示プログラムごとに、パネルとプログラムで活用するツール、使い方マニュアル、バックデータなどが貸出ボックスに入っているので、持ち運びやすく、必要に応じて複数個つくることも比較的安価にでき、貸出の際におこなう使い方講座などによって指導者育成の場も生まれる。

効果的な広報が自前でできる

スタッフが身につけていくスキルは、展示プログラムづくりだけではない。伝えたい相手に届く広報スキルもスタッフが身につけ、広報媒体もつくっていくのである。

どんなにいい展示プログラムができても、広報がうまくいかなければ市民は来てくれないし、地域や学校と連携したいと思ってもこちらの意図することが伝わらなければ、一緒にやろうとは思ってくれない。

効果的な広報をするときに役立つのは、伝える相手の立場に立って考えるということである。幸いスタッフは、展示プログラムや貸出物をつくるときに、くりかえしこの練習をしている。伝えるべき内容は自分たちで考えてつくったもので、基本的なデザインスキルは、展示プログラムのパネルやツールづくりで身につけている。いや正確にいうと、デザイナーでなくてもできるデザインフォーマットを私たちがつくり、それを活用していけるスキルを身につけているのである。

外部のデザイナーやPR会社に広報を頼むと、こちらが伝えようとする意図や内容を的確に理解してもらうために多くの時間や手間や費用がかかり、充分な広報をできないことがある。効果的な広報が自前でできるということは、施設運営の上でも大きな力になるだろう。

担い手を育てていく

国や自治体などによって運営されている施設であるならば、スタッフを育成するだけでなく、ゆくゆくはスタッフが市民の担い手を育てたり、地域で展示プログラムづくりができる人たちを育てたりできるようになることも視野に入れておくべきだろう。

環境省「ストップおんだん館」での市民を対象としたプログラム活用講座

たとえばストップおんだん館の場合、開館後3年目あたりから指導者育成講座のニーズが高まってきた。まずは貸出物の使い方講座からはじまって、インタープリテーション講座、展示プログラムの地域アレンジ講座など、いくつかの対象に合わせた講座(ワークショップ)がおこなわれるようになっていった。

担い手を育てるということは、自分でできることとはまた別のスキルが必要だが、スタッフは、自分たちが学んでいったプロセスを参考にしながら、担い手の育成をおこなっていったのである。

ネットも活用

スタッフが市民などの担い手を育成ができるようになるまでが私たちの仕事だと思っている。そのために必要な期間は、場と状況によって変わってくるが、いままでの経験上5年程だと感じている。

近くであれば、展示替えに合わせて月に何回かのスキルアップ研修をおこなえるが、日帰りできない距離になると、予算との関係もあり、数日間連続の研修を年に何回かおこない、研修と研修の間はメールやzoomなどでやりとりをしながら展示プログラムづくりのサポートをおこなっていくという形式になる。

これまで関わった多くの施設が日帰りできない距離だったので、距離による不都合はあまり感じていないが、できるだけ多くの情報を共有しながら進めていくのがコツではないだろうか。

*環境省地球環境パートナーシッププラザ:展示&ワークショップ企画製作・スタッフ研修・アップデイト展示システム導入(1996〜1997年度、2008〜2010年度)
*豊田市環境学習施設エコット:展示プログラムづくり研修・アップデイト展示システム導入(2008〜2010年度)
*かごしま環境未来館:展示プログラムづくり研修・アップデイト展示システム導入(2010〜2012年度)


*掲載誌:博物館専門誌ミュゼ 92号、99号、102号